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「寛永七年」(1630)五月廿日
阿蘇惟善証文写 刊本328号
阿蘇社神主の阿蘇惟善が加藤家の国中知行方奉行であった加藤平左衛門尉正長に提出した証文の写しである。阿蘇神社には、寛永八年五月に同じ加藤正長が神主惟善に宛てた文書が所蔵されている(阿蘇家と阿蘇神社展実行委員会編『火の国の伝統 阿蘇家と阿蘇神社展』鶴屋百貨店、1990年、所収)。そこでは、江戸住まいの藩主加藤忠廣の命によって、例年通り、阿蘇行者に大峯<おおみね>(吉野金峯山)において大護摩の修行を行わせるための事前の手筈が、正長によって指示されていた。本文書は前半部が欠損しているが、前年の修行にかかった費用を書き上げて正長に報告したもの。修行は藩主忠廣の命で行われたから、費用も藩が負担したと考えられる。本文書は阿蘇神主から藩の奉行への費用下行<げぎょう>申告書の控えといえる。加藤家当主と阿蘇社諸坊・行者との宗教的結び付きを窺わせて興味深い。(稲葉)