冨永昌人先生(大学院自然科学研究科(工学系・大学院))

冨永先生(左)の研究室にて

冨永先生(左)の研究室にて

 

Q.先生の研究内容や専門分野および、今回1万件目の論文についてお聞かせください。

 専門分野は電気化学です。電気的なエネルギーと物質的なエネルギーの変換を扱う学問です。例えば、近年話題となっている太陽電池・燃料電池・リチウムイオン電池といった電池関係は電気化学と密接に関連しています。
 私達の体の中ではいろいろな酵素が反応して代謝が行われています。その代謝反応も電気化学的な観点から見ると、多くの場合で酸化と還元反応が起こっています。車に搭載されているバッテリー(鉛蓄電池)のような金属の反応から、我々の生体内での反応まで、酸化もしくは還元反応を含むすべての反応を電気化学の分野として考えることができます。その中でも私達が最近精力的に取り組んでいるのが、今回一万件目の論文となった「酵素を使った燃料電池」です。通常、燃料電池というと、エネファームがよく知られていると思います。エネファームは物質を変換してエネルギーを取り出す際に金属触媒が使われています。現在、私達が研究しているのは、金属ではなく酵素を触媒として使用し、燃料電池を作ろうというものです。
 もう少し詳しくお話ししますと、エネファームは家庭用に使われている都市ガス(主成分はメタンガス)から水素を取り出し、その水素はエネファーム中で空気中の酸素と反応して水になります。酸素は水素と反応して還元されます。一方、水素側からみると水(H2O)になることは酸化反応であり、この酸化と還元反応の組み合わせにより発電ができます。私達の体内でも、たとえば摂取した果糖と酸素に酵素が加わり、酸化と還元反応が起きてエネルギーを作っています。ただ私達の体は電気を蓄えたり発したりすることはできませんので、アデノシン三リン酸(ATP)などの化学エネルギーとして蓄えています。体の代謝反応も大きな視点から見ると、燃料電池として考えることもできると思っています。現在の研究は、私達の体の中の仕組みを模倣したような燃料電池の作製、と考えることができると思います。
 今回の一万件の論文については、酵素以外のキーワードが二点あり、一点は、ナノ炭素材料を用いていることです。燃料電池には電極が必要ですが、金属を使うとコストが高くなり、重量も重くなりますので、炭素を材料として使っています。もう一点は、構造を工夫することで効率の向上を図っていることです。大きな電流を得るためには反応する表面積を広くしないといけません。研究で用いているカーボンナノチューブは炭素のみから成っており、直径が1ナノメーター、長さが数マイクロメーターの一本の線のようなもので、チューブ状になっています。この炭素素材は導電性が非常に高く、構造も安定で、耐久性も高いため、本燃料電池の電極として有効に使用することができます。

Q.研究を始めたきっかけについてお教えいただけますか?

 大学四年生の時、現学長・谷口 功先生の研究室(当時は安河内研究室でしたが)に所属していました。研究室では、酵素などの生体分子と電極との電気化学的なコミュニケーション(電子授受反応)について研究が行われていました。この分野は研究領域として新しく、当時では十年くらい前から始まった分野でした。私が研究室へ入った時は未知の領域で将来性をすごく感じました。当時から谷口学長は、国際的に活躍されており、そのような研究者になりたいと思ったことがきっかけです。それと、世界の有力大学の図書館には研究論文の国際誌が蔵書されています。その雑誌に論文が掲載されると自分の名前が残ることになります。少し大げさかもしれませんが、世界の大学附属図書館の蔵書に自分の名前を残すことができる、ということがとても新鮮でした。

Q.今後の抱負を是非!

 現在、酵素を反応触媒として使った燃料電池の開発に取り組んでおり、この燃料電池は年々出力が上がっています。本分野は10年程前から世界的に本格的な研究が始まり、ここ10年間で出力が100倍まで上がりました。ただ、100倍上がっても今は1平方センチメートルあたり数10ミリワットのレベルです。実用化にはまだまだですが、モーター程度なら簡単に回せる出力を得ています。10年間に100倍上がったので、今後10年間にはさらに100倍・・・とまでは無理かも知れませんが、たとえ10倍でも、1平方センチメートルあたり数百ミリワットとなり出力としては十分実用化レベルです。エネファームは1平方センチメートルあたりおおよそ二百ミリワットです。ですから、今の10倍程を上げることができれば、エネファームくらいのレベルには到達できると考えています。実用化には色々な課題がありますが、解決しないといけない課題はわかってきていますので、そこをどう突破していくか、模索しています。また今後、関連企業との実用化をめざした共同研究も重要になると考えています。リポジトリ1万件目の登録論文は、九州大学の中嶋先生との共同研究ですが、このように他大学との連携もさらに進むと考えています。

Q.リポジトリに関することについて、お尋ねします。リポジトリで論文を公開した後、なにか反応はありましたか?

 直接感じることはまだありませんが、リポジトリの無料公開によりなんらかの場所で、私の論文を目にしてくれる機会が増えると思います。雑誌に掲載される論文は、基本的に有料公開です。本学を含め、国立大学では電子ジャーナルの導入が進んでおり、利用できる大学も多いと思います。出版社版の論文を直接見ることができる大学は、出版社サイトに行くと思いますが、そうでない環境の大学も結構ありますし、特に海外では利用できない大学・研究機関が多いと思います。そういった大学や研究所の研究者に論文を読んで頂き、活用していただければ非常にいいことであると思っています。あと、大学に所属されていない一般の方々や学生の方に見ていただければいいと思います。
 特許等ですぐに研究内容を公開できない論文もありますが、そのような場合は時間を置いて発表しています。最近国際誌に論文を投稿し受理されましたが、その内容は2年程前の研究でした。昨年度特許を申請し、ようやく投稿できるようになったものです。特許を考えるとすぐに発表できませんので、もどかしい所はあります。

Q.今後のリポジトリ活動について、なんでも結構です。ご意見をお願いします。

 リポジトリは大学として情報を発信する場として非常に有効と思っています。最近はかなりコンテンツも充実してきていますね。ただ、メニューの表記等は、現在すべて日本語です。出版社版の論文を読むことができない海外の方々へ発信するためには、英語表記も必要ではないでしょうか。そうすることで、海外からのアクセスもしやすくなり、本学のアピールにもつながると思います。海外からアクセスがあると、熊本大学でこのような研究をしている先生がいることがわかり、海外学生の意欲、ひいては留学生の確保にもつながると思います。
 通常、海外の学生や研究者が熊大のホームページを見ることはほとんどないと思いますが、サーチエンジン等でリポジトリの論文を見つけ、論文を開いた際、余白に大学のロゴや透かし等が入っていたりすると、そこで熊本大学についてアピールできるため、良いのではないかと思います。
 それから、先ほど私の論文のアクセス統計を少し見せていただいて、論文として入手できないものを欲しがっているのかなと思いました。学会の要旨集等は、学会に参加しないともらえないものなので、そのようなものをリポジトリへ登録できれば良いと思っています。

Q.附属図書館への要望はございますか?

 全学への広報でメールを使用することがあると思いますが、理工系の研究者に対しては、簡潔な内容で構わないと思います。みなさん忙しく、メールの数も多く、なかなかメールの詳細まで読むことが難しいです。30秒程度で概要がわかるよう、ポイントを絞って書いていただければ良いと思います。

Q.最後に、先生のオススメの図書をお教えください。

 読みたい本は沢山ありますが、講談社ブルーバックスの「大学生物学の教科書」等はオススメですね。この本は、米国の大学の教養教育に用いられている生物学の教科書のようですが、生物学の本質を非常に分かりやすく書いてあります。私が今読んでも勉強になります。

冨永先生、ありがとうございました。


編集後記
 ついにコンテンツ数1万件を突破しました。これまで、冨永先生をはじめ、熊本大学の沢山の先生方が、多数の論文をリポジトリに登録してきた結果と思います。日頃から論文を登録していただいている先生方、いつも論文登録ありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします。そして、このインタビュー記事を見て、手持ちの論文をリポジトリに登録してみたくなった先生方、是非一度図書館電子情報担当にご連絡をお願いします。
 論文登録させてくださーい!

インタビュー日時:平成24年6月7日
インタビュアー:浜崎(教育研究推進部 図書館ユニット 雑誌担当)
記録:森下(教育研究推進部 図書館ユニット 電子情報担当)