中内哲先生(法学部)

nakauchi

 

Q.先生の研究内容についてお聞かせください。

 熊本大学が高校生向けに作成している「がんばれ受験生」というパンフレットの2012(平成24)年版に、私の専攻領域についてメッセージが掲載されているので、これを参考にしていただければ、「ああ、なるほど」みたいなイメージがわくと思います。

 (内容抜粋)
 私の専門領域は労働法。基本的に民間企業とそこで働いている人々とのトラブルの解決を考える学問です。以前は強かった労働組合の影響力が弱まり、現在は、労働者個人の権利意識が強まっています。また、公務員試験や社会保険労務士という資格試験で問われる科目でもあるので、労働法は一社会人としての素養といってもいいのかもしれません。かといって「法律」だけを勉強すればいいわけではありません。労働法は、その時代時代の政治・経済・社会状況にかなり敏感に反応するので、法律以外の学問にも興味関心が持てるとさらに理解が深まります。
 詳しくはこちら(熊本大学案内2012)

 さらに細かく自分の研究対象というと、「在籍出向関係」と表現できます。例えばAという会社に就職した。A社との関係はつなげておくけど、A社にはポストがないから子会社Bに行ってくれ、と言われることは現実にいくらでもあるわけですよね。A社とはつながっているけど実際働くのはB社。じゃあ、このA・B両社と自分(労働者)の三者関係ってどうなるの?が意外と難しい話なんです。どこかで問題が起こった時に、自分にとっての親会社Aが責任とってくれるの?それともB社?両社共同で面倒見るの?とか考えるとそう簡単には答えが出ないように思うので、研究を深めたいと考えています。ぜひ、熊本大学研究シーズ集もご覧ください。

Q.労働法をご専門にされているきっかけは何ですか?

 まず両親の影響が大きいでしょう。両親は1960年安保反対闘争を大学で担った世代です。その当時の労働組合は一つの大きな社会的存在だったはずで、時のニュースや世相が親子で話題になる中で、働くこととか、労働組合とか、それを取り巻く法制度だとかについて自然に対話していたんだと思います。

 高校の時には中国史が大好きだったんです。大学で中国史(東洋史)を勉強するか、法律じゃなくて政治学を勉強するか、で悩んだんですね。当時の文学部哲学科出身の担任の先生が、「中国史が好きだって気持ちは趣味で保てばいい。政治がおもしろいっていうんなら、法学部とか政経学部とかへ進学した方が社会に出るときにいいんじゃないか」と言ってくださって、大学の志望学部を法学部にしたんです。でも繰り返しですけど、法律専攻じゃないんです。

 何といっても決定的なきっかけは、師匠である浜田冨士郎先生(当時、神戸大学法学部教授。現在、神戸大学名誉教授・弁護士)との出会いです。話すと長くなるのですが、今から思い起こしても不思議なご縁としか言いようがありません。その時からもう22年あまり経ちました。

Q.労働法のおもしろさを具体的に教えてください。

 民法という学問領域がもともとの労働法の生みの親なんです。民法だと立場が入れ替わることがあります。物を買う方が物を売る立場になることだってあるし、お金を貸している方が借りる側に回ることもあります。立場の互換性っていうのがありうるんです。けれども労働法では、労働者と使用者の立場が入れ替わる事はあまり想定できないんですね。そうした価値対立がはっきりしているところが、少なくとも自分の性に合ったようです。弱い立場の労働者をどう守るのか、というドラマに感情移入しやすい、という点をおもしろさに挙げることができるかもしれません。

Q.今後の研究の抱負を教えてください。

 先ほど話題にしました「在籍出向関係」について、まだ途上なもんですから、それをなんとか完結させたいです。私は博士号を持っていないので、この研究の諸成果をまとめると一つの世界観が提示できるのだとすれば、それを基に博士号を申請できるようにしたいな、というのが研究上の大きな目標です。

Q.熊本大学学術リポジトリを知ったきっかけは何ですか?

 図書館の広報を通じて知ったんだと思います。教授会でも「リポジトリというのがあって、登録いただけたらありがたい」というアナウンスが、制度発足からずっとなされていましたし。

Q.中内先生が熊本大学学術リポジトリに登録されている論文のなかで、ダウンロード数がひと際多いものがありますが、その理由についてどう思われますか?

 おそらく、ダウンロード数がひと際多い論文をダウンロードあるいはアクセスされた方は一般の方ではないと思います。大学教員(研究者)として労働法を担当している者か、大学院で労働法を専攻していていずれ大学教員になりたいと思っている方が、今抱えている課題との関係でダウンロードしているんじゃないかと思います。

 研究者や大学院生が論文を書こうとする時に、自分よりも前に同じようなテーマでどういう論文が発表されているのか、その筆者はどういう意見だったのか、という情報を集めるはずです。そうした過程の一環で中内の論文もダウンロードされていると推測します。

Q.「熊本大学学術リポジトリ」に掲載された論文をどのような人に読んでもらいたいですか?

 広く一般の方に見ていただきたいですね。そうは言っても、論文なんで、一般の方が見てもやっぱりわかりにくい。そうすれば結果としてアクセスされる方、ダウンロードまでしてくださる方は、専攻を同じくする研究者か、大学院生になってしまうと思いますが、あらゆる階層の方に見てもらいたいという気持ちで論文を書きリポジトリにアップロードして頂いています。

 また、中内の専攻領域である「労働法」の世界では、弁護士の先生方も大変大切な存在なんです。実際に労働事件に直面し手助けしている方々がどう考え何を思うのか、というのも労働法研究者にとって大事なのです。

Q.「熊本大学学術リポジトリ」などで論文を無料公開することに対して、どのようなメリットや意義があるとお考えですか?

 まず、検索可能性が大いに拡がります。一応検索に引っ掛かれば論文を見てくださる。そのうえで検索した方にとって意味のある、あるいは批判すべき対象だということになれば、脚注に引用していただける、というのが何よりのメリットです。研究者や大学院生が時間と労力をかけて書いた論文が誰にも見てもらえないという状態は、一番悔しいし残念なことだと思うんですね。その可能性をなるべく小さくして、むしろ論文が多くの方々の目に触れる機会を格段に増加させうることが、私にとってのリポジトリの魅力、メリットです。

 中内先生、ありがとうございました。
 
とてもわかりやすくお話いただき、そして楽しくインタビューさせていただきました。
 中内先生は、法律関係の他にも労働安全衛生関係、自動車・船舶関係、無線関係、ダイビング関係、武道等、広い分野で29もの資格を持っていらっしゃいます。担当者とはダイビングの話で盛り上がりました!


インタビュー日:2011年10月6日
インタビュー担当:村上(教育研究推進部図書館ユニット 閲覧担当)
記録担当:藤浦(教育研究推進部図書館ユニット 電子情報担当)