吉田道雄先生(教育学部附属教育実践総合センター)

yosida

 

Q.先生の研究内容について教えてください。

 一般に知られている専門領域としては、心理学になります。その中でも、特に集団との関わりをとおして人間を理解することが私の研究です。人間は誰でもそうですが、生まれたときから生涯を終えるまで集団との関わりを避けることができません。不幸なケースとして一人きりで亡くなることもありますが、その背景には集団の問題があります。つまり、根本には社会や人間との関わりを抜きにしては人間の行動を理解することはできないのです。
 心理学領域の中では、社会心理学に近い領域ですが、専門的には「グループ・ダイナミックス(集団力学)」と呼んでいます。

現在の研究 (2つのテーマ)
I.「リーダーシップ(対人関係)トレーニングの開発と実践」 
 大学4年生の時に、恩師(三隅二不二(みすみ じゅうじ)先生)の研究室でリーダーシップを測定する尺度ができあがったところでした。それを使うと、望ましい結果をもたらすリーダーとそうでないリーダーが明らかになります。しかし、それだけで終わるのではなく、データを基にして、望ましいリーダーが発揮できるように働きかけることが大事です。そうした改善を目的にして開発されたのが「リーダーシップ・トレーニング」です。私はこうした研究が始まるときから関わりをもつことができたのです。そして、これがとても性にあっていて、1970年代から今まで40年以上も研究と実践を続けているわけです。
 ところで、「リーダーシップ・トレーニング」というと少しばかり誤解が生じやすいと感じています。一般的にリーダーシップと聞くと、自分がリーダーではないのでトレーニングなど関係ないと思われがちだからです。そうしたことから、私はあえて「対人関係トレーニング」と呼ぶことも多いのです。
 さらに、人と人との関わる「対人関係」は、筋肉と同じように訓練で鍛えることができると考えています。そこで私は「対人関係力」とか「リーダーシップ力」のように「力」を付けて、「みなさんエクササイズしましょう」と呼びかけているのです。
 日本語は面白いですね。“自慢じゃないけど…”と言うときは必ず自慢します。そこで自慢じゃないのですが、私が今まで企画し、実践した研修やトレーニングは500回を超えています。大学の授業もそうですが、私はトレーニングもしっかり楽しみながら実施しています。

Ⅱ 「組織の安全に関する研究」
  わが国の1970年代は、現在の中国と同じように工業製品を中心にモノを大量に生産しており、「集中豪雨的」とまで言われるような輸出をしていました。そこでは、品質向上や生産性の向上などが話題になっていました。しかし、それに伴ってミスや事故も頻繁に発生するようになりました。そこで、注目されたのがリーダーシップでした。その改善をとおして組織の安全を高めることができるのではないかという期待が生まれました。こうした私の研究対象も組織の安全や事故防止へと拡大していきました。
 そのため、私としては、「組織安全学」の確立を提唱し、研究を進めています。今回の原子力発電所のように、とても衝撃的で大きな事故もありますが、小規模の組織におけるちょっとした不祥事なども含めて、組織の安全を研究の対象になっています。

研究をはじめられたきっかけ
 父の影響が大きいです。私が高校生の頃、西日本新聞に“九大群像”というシリーズが掲載されていました。その中に三隅先生のリーダーシップ理論の紹介があったのですが、父がそれを切り抜いていました。そして、「こんな研究って面白そうだな」などといいながら私に見せたことがありました。それが集団力学との出会いだったわけです。高校の授業には心理学はありません。そんなこともあって、授業で習わない心理学は面白そうだと考えていたうえに、新聞を父が切り抜きまでしていたことから、こんなことをしたいなあという気持ちになりました。
 そのためもあって、大学に入学した当初からしっかり目的意識を持っていました。すでにお話ししたように、当時の三隅研究室ではリーダーシップ測定尺度で緻密なデータを得るためのノウハウが蓄積されていました。その流れの中でリーダーシップ・トレーニングを開発しようという動きが生まれ、私はそんな草創期に巡り合ったのです。
 当時は学会もおおらかで、「日本グループ・ダイナミックス学会」には10代の学生で会員になりました。これも自慢ではありませんが…、やはり自慢話になりますね。

今後の抱負
 「リーダーシップ・トレーニング」が私のライフワークです。人との関わりが続く限り対人関係は存在しますから、リーダーシップ自体がもともと生涯学習ということになります。そこで、これからも「リーダーシップ・トレーニング」に新しいアイディアや手法を導入していきたいと思っています。どこまで行っても「ベスト」には到達できませんが、それでもベストを追及するところが、われながら面白いなあと思います。また最近は、健康で安全な社会を作ることが大事になってきましたから、それらも包み込みながら研究を進めていきたいと考えています。

 

Q.「熊本大学学術リポジトリ」について教えてください。

登録いただいたきっかけ
 ずいぶんと前のことなので、もうはっきりとは覚えていませんが、たぶん、全学へ宛てたメールによるご紹介が最初でしょう。自分からリポジトリへアクセスしていたという記憶はありません。
 その後、個別に連絡をいただいて、論文を投稿したことは確かです。

吉田先生は、110件以上の論文を登録いただいています。論文公開後に、なにか変化がありましたら教えてください。
 直接反応があったというよりも、いろいろな方から尺度を使用していいかとか、論文を引用したいといった問い合わせがあります。これは、間違いなく熊大学術リポジトリの効果だと考えています。
 もっとも、熊大の学術リポジトリを検索したかどうかを確認はしていませんから、CiNii等を経由してリポジトリの論文へたどり着かれた可能性はあります。その場合は、利用者ご自身に熊大リポジトリを利用したという意識はないかもしれません。

吉田先生ご自身が、リポジトリを利用されることはありますか?
 よく利用しています。
 CiNiiを経由することもありますが、著者アクセスから論文を探すことが多いですね。私の授業では、最初の時間にリポジトリとCiNiiの紹介をしています。大学院生でも意外と知らないことが多いのですが、学部生のうちから知っておくといいですね。

「熊本大学学術リポジトリ」などで論文を無料公開することに対して、どのようなメリットや意義があるとお考えですか?
 単純なことですが、個人でPRできない方々に読んでいただけることが最大のメリットです。
 そもそも論文は読んでもらうために書いているのですから、少数の人からしか読まれないというのでは寂しいですよね。大勢の方に読んでもらえるということは、とにかくそれだけで素晴らしいことです。今では、なくてはならないものだと思っています。

吉田先生の論文で、ダウンロード数1位の論文はこちら↓
対人関係トレーニングの開発と実践 : トレーニング・マニュアル作成の試み (3)

「熊本大学学術リポジトリ」に掲載された論文をどのような人に読んでもらいたいですか?
 もちろんどなたにも読んでいただきたいですね。あえて言えば、組織や団体の責任者やリーダーシップを発揮することが期待されている方々、そして、組織の安全に関心をお持ちの皆さまに読んでいただきたいと思います。もちろん、現実にもそうなっていると思っています。
 お問い合わせなどから推察すると、教育関係者や企業組織のメンバー、さらに看護師の方々にも読んでいただいているようです。

 

Q.「熊本大学学術リポジトリ」へのご意見、ご感想をお願いします。

 論文を登録した順番ではなく、掲載が新しいものから(降順)表示されるといいですね。
 最新の論文が一番後ろに表示されてしまうのは、唯一の問題だと思います。もうひとつは…かなり難しい要望になりますが、著者の希望する分類もできればベストですね。(といっても、担当者にとっては大変ですね。)

 

吉田先生、どうもありがとうございました。


インタビュー日:2011年10月11日
インタビュー担当:藤浦(教育研究推進部図書館ユニット 電子情報担当)
記録担当:浜崎(教育研究推進部図書館ユニット 雑誌担当)