浪平隆男先生(バイオエレクトリクス研究センター)

namihira

 

Q.先生のご専門について教えてください。

 私はバイオエレクトリクス研究センターに所属しています。名前にバイオと入っていますが、そのあとにエレクトリクスと入っているように、バイオが専門ではなくて電気がもともとの専門です。その電気の中でも、日常使われている直流電力や交流電力とは異なる、第三の電力として期待されているパルス電力について研究しており、環境浄化技術を中心とした産業応用化を目指しています。

Q.環境の浄化というのは具体的にはどういったことですか?

 パルス電力を使うと人工的に小さな雷をたくさん発生させることができます。その雷を空気や酸素の中で発生させると、酸素がオゾンと呼ばれるものに変化します。このオゾンは、殺菌・脱臭・脱色能力があり、様々に空気を浄化してくれます。それとはまた別に、自動車や火力発電所の排気ガスの中で小さな雷を起こすと、その中に入っている一酸化窒素(NO)という有害物質を、無害な窒素(N2)と酸素(O2)に分解できるようになります。

 それから、もう少しパルス電力を大きくしていくと、気体中ではなくて、コンクリートのような固い物の中でも雷を発生させることができるようになります。コンクリートというのは骨材と呼ばれる小石とセメントの塊なのですが、雷をコンクリートの中で発生させると、小石からセメントがきれいにはがれます。骨材が原材料レベルまできれいに戻るので、再利用が簡単になる、といった研究もしております。

Q.研究を始められたきっかけは何ですか?

 学部4年生の時に卒業研究でパルス電力の研究に携わり、それから一貫して続けています。

Q.今後進めていきたい研究はありますか? 

 現在は空気浄化やコンクリートリサイクルに関して研究していますが、今後は、液体や土壌の浄化、そういったものにこの技術をうまく応用できないか、と考えています。そうすることで、気体・液体・固体とすべての物質に対するトータルな浄化技術として完成できたら、と思っております。

Q.そのような大きなパワーというか、パルスを発生させる時に、どれぐらいのエネルギーがかかるのですか?

 こういった雷やコンクリート破壊と聞くと、非常に大きなエネルギーを使うのではないかと思われるのですが、確かに瞬間的なエネルギー、電力と呼ばれるものは、非常に大きく、メガワット(MW)・ギガワット(GW)オーダーのものが発生するのですけど、その発生時間は非常に短くて、10-6秒から10-9秒といった時間です。そのため、発生電力と発生時間の積である消費エネルギーとしては非常に小さくなります。例えば、コンクリートを破壊する雷を100回発生させたとしても、1円の電気代にも満たないぐらいの消費エネルギーとなります。

Q.現在、そういったパルスを発生させられる機械というのは、熊本大学のような研究施設にしかないんでしょうか。

 現時点では、市販されているパルス電源というのはございません。やはり特殊な電源となりますので、我々は自分で作って、実験・研究を進めています。今後、環境浄化技術として応用が進むと、やがて汎用機という形で世の中に出てくることになると思います。そういった汎用機の開発にも携わることが出来ればと考えております。

Q.実用化の見通しはありますか?

 先ほど紹介しましたオゾン発生に関しましては、現在4つの企業と共同研究をしています。それぞれ用途は違うのですが、実用化に向けて研究を進めておりまして、早ければ4-5年後に製品が世に出れば、と考えております。それから、コンクリートリサイクルの方は、既にパイロットプラントが出来上がっておりまして、現在、熊本大学の地域共同ラボラトリーにて運転しています。そこではいくつかの企業とコンソーシアムを組み、土木業界でどのように利用していくかについて話をしている段階に入っています。

 技術は完成するだけではなかなか世に出ていかず、それをどのようにビジネスへつなげていくか、というのがコンクリートリサイクルに関する一つの課題になっています。例えば、コンクリートの骨材・小石はうまくリサイクルできるようになるのですが、そのリサイクルした骨材は手間をかけているため、天然の骨材よりもコストが高くついてしまいます。そのため、そこには何らかの手(考え)が入らないと再生した骨材が世に流通しない、ということになります。コンソーシアムでは、県や市などの自治体に対して、再生紙と同様に、再生骨材を使ったコンクリート、再生コンクリートを積極的に使ってほしい、という問いかけなどを通して、再生されたものをうまく世の中にだすことを目指しています。

Q.『熊本大学学術リポジトリ』を知ったきっかけは何ですか?

 附属図書館の担当者からの「この論文(浪平先生の論文)をリポジトリに収録したい。」という問い合わせがきっかけです。

Q.熊本大学に限らず、リポジトリというものがあるというのはご存じでしたか?

 当時はリポジトリとして認識していませんでしたが、インターネットで論文を検索すると、どこかの大学図書館のwebサイトに飛んで、そこから原稿が出てきたりしてたので、その大学独自にアーカイブをやっているのかな、と思っていました。そういったときに、(熊本大学の)図書館からの問い合わせで「ああ、リポジトリだったんだ。」と認識しました。

Q.リポジトリに登録して、何か反応はありましたか?

 特に実感としてはないのですが・・・。ひょっとしたら、リポジトリからの発信情報を通して、論文のサイテーション数が増加しているのかもしれません。私はIEEEを中心に論文を出していますが、その電子ジャーナルはお金を払わないと見れません。そのため、IEEEへの掲載論文と同様の原稿が無料のリポジトリを通じて発信されることで、他の論文へのサイテーションとして反映されるのかな、と思います。

Q.リポジトリなどで論文を無料公開することについて、何かメリットや意義を感じられていることがありましたら教えてください。

 やはり、だれでも気軽に論文を読めるというのはいいことだと思います。我々の書いている論文は、大げさではありますが「人類の財産」とも言えますので、一部の人が独り占めするのではなく、すべての人で共有できた方がいい、と思います。

Q.オープンアクセス運動についてご意見やご感想があれば、教えてください。

 ぜひ、積極的に推進してほしいですね。

浪平先生、ありがとうございました。


インタビュー日:2011年10月19日
インタビュー担当:廣田(教育研究推進部図書館ユニット 利用相談担当)
記録担当:藤浦(教育研究推進部図書館ユニット 電子情報担当)